7月末に「家づくり学校」の講義において、高崎市へ行きました。
そこで、高崎美術館敷地内にある「井上房一郎邸」を見学しました。
こちらは東京にあったアントニン・レーモンドの住居兼事務所の写しとして1952年に建てられたもので、今ではとても貴重なものとなっています。
高崎の実業家であった井上房一郎は文化の振興にも熱心で、芸術家との親交も深かったそうです。その関係でレーモンドの麻布に建っていた事務所を見る機会があり、その建物をとても気に入り、図面を提供してほしいと申し出ました。それに対してレーモンドもその要請を快く受けたそうです。
なだらかな平屋の住宅はレーモンドが得意としたスタイルで、竪羽目板張りの外壁と濡れ縁のない軒下空間や、内部と外部の床の段差の小ささが一般的な日本家屋との違いだと気づきます。
特に南側にせり出した深く低い軒は印象的です。その大きくとられた軒下にはベンチも置かれています。ここは日本家屋の縁側のような、くつろぎの空間となっています。
ただ、まったくの写しというわけでもなく、中庭を挟んで部屋の配置が左右逆になっていたり、井上婦人の為に畳敷きの和室をつくらせたり、使われている木材は本家麻布では廃材を利用していたのに対し、こちらでは厳選した上質なものを集めたそうです。
開放的な居間は、壁にラワンベニヤを使っていて、現しの梁や暖房用のダクトが空間を構成しています。
丸柱と補強材に二つ割りにした丸太を使い、梁を支える挟み状トラスは、構造的にも強度を高め、意匠的な美しさも持っています。
パーゴラのあるパティオからは庭が眺められ、ここで内部と外部が繋がれ、家全体の奥行きと開放感が感じられる空間となっています。
それ以外の内部や外構などもしっかりと見学しましたが、全体に感じる木の質感と重心の低い空間の構成、竹と石灯篭の和風庭園などもしっかりと整備されていて、とても気持ちの良い建築でした。
みなさんも機会があればぜひ。
宮野 人至/宮野人至建築設計事務所(
NPO法人家づくりの会所属)