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”まちに出た、建築家たち。”ーNPO法人家づくりの会

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建築費高騰と設計者の役割—罠のある大きな構図の中で


—被災地で極限までに安価に建てたFSB工法完成前の住宅内部
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写真2—関東で設計者の考えに共感して依頼した同じ工法の住宅内部
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 最近関東での建築工事費が上がってきて、見積もり調整に苦労する度合いがより高くなって来ました。建築従事者がどんどん減少していく構図の中で、東京オリンピックや震災復興のせいなのか、工事費が高騰し、住宅で設計者的工夫の余地あるものが作りにくくなってきています。被災地ではその度合いが著しく、資金のない方のため、極限までに安価な住宅を創らなければならない状況では、設計者のやれることは、法的手続き以外殆どありません。たまたま提案した、木材を大量に使う新しい工法の建築に、建築確認申請が難しいからということで、設計の手伝いをしています。やれることはせいぜい建て主の使い易さを、できる限り忖度してあげて間取りを考え、その上で施工者のやり易さを図面化することぐらいで、工務店の設計部とさして変わらない役割のみです。正直建て主の言う通りに図面化するだけでは、その住宅の中に潜む問題の根本的な解決にはならず、さしていい設計にはなりません。
 たとえば冬かなり寒いところということで、陽射しが入り易い位置に建てようと、土を一部切り崩さなければならないところに配置しようとしても、費用増になるからと、日当りが多少悪くなっても工事し易い位置でよい、となります。大量の木材を使用しているため、蓄熱性能の高い住宅になるので、10年の暖房灯油代で元が取れるから、深夜電力使用のヒートポンプ式の蓄熱ヒーターを提案しても、建築段階での費用増になるので取りやめ、冷たい風を床下に入れこむ、冬冷房のような床下換気にせざるを得ない設計になったりもします。予算や借り入れの限界、家族数等で、必要面積を考えるとしょうがないのですが、形態やデザインのためだけなら、設計者の個人的こだわりは諦めもしますが、機能や居住性能に関わった、明らかなメリットの放棄には、設計者として内心忸怩たるものがあります。
 確かに新しいことは施工者には慣れていない作業となり、戸惑わせ、人工が掛かってしまい、費用増に結びつくのです。究極の低予算では工事者の意向が全てで、設計者の出る幕はありません。依頼者が私の考え方を信頼して来た方なら、あらゆる方法を駆使してでも何とかするのですが、元々住宅では設計者を必要としない風土の土地柄で、地元の山林組合を信頼し、決められた工務店と工事単価が前提で紹介された構図の中で来られた方なので、私も余計なことはできず、依頼者も自分のそれまでの経験で判断できない設計者の提案には、今一つ乗れないのだろうと思われます。改めて設計者の役割とは何なのか、考えさせられます。
 今、個々人の経済格差や地域格差が想像以上に広がって来ていると言われています。世界がグローバル化して来て、資本主義の罠が如実に明らかになってきつつあるのではないかと感じています。トマ・ピケティーの21世紀の資本主義ではありませんが、つまり世界中の利益が一握りの数少なくない資本家に、級数倍的に集約し、その分中産階級や低所得者階級の収入が実質より低くなっていくという、根本的大きな構造が明らかになって来たということです。植民地や低開発国の経済成長、あるいは石油等の天然資源が高度成長を牽引できていた段階では、大多数の中産階級にも多少のお裾分けがあり、それほど問題視されずに来ました。それがグローバル化した世界の中では、先進国と低開発国との差益で得られるメリットがすぐに平準化し、さほど利益を生み出せなくなり、牽引できず、やむなく経営者は資本家や株主のために、下請けの中小企業や従業員、あるいは地方の支店や営業所から中央に利益を搾り取ろうとせざるを得ない構図が誰にも見えるようになって来ました。このような経済格差と地域格差を増大させる大きな構図の罠に、建築も巻き込まれ、どんどん収益を貪られて構造不況産業になり、従事者がどんどん転業していき、激減して来ている段階に、震災復興や東京オリンピック等で、公共投資がなされても、人手が無い以上、建設物価の異常な高騰をもたらすだけです。このように建築費が高騰している状況では、大資本に搾り取られて実質給与が下がっている、一般の中小企業のサラリーマン等には、親の土地での建て替えですら難しい状況になっています。
 この状況に嘆いているばかりではしょうがありません。今私どもの事務所では、全国の心ある賛同者と連携し合って、この構造を少しづつ逆転させるべく、資本主義の通常の構図に逆らって都会の住宅の建設物価を下げ、地方に収益を逆流させる仕掛けを、わずかずつですが試み始めています。内容をご説明したいところですが、それでなくても長過ぎるブログなってしまいましたので、詳しくは私どものホームページをご覧下さい。
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少しでも建築工事費を下げさせる構図ができれば、この坪庭のような、回りの空間を豊かにする設計者的工夫ができる余地も生まれます。藤原昭夫/結 設計 
by npo-iezukurinokai | 2015-01-19 12:33 | 結(ゆい)設計 | Comments(0)
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